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グーグルマップのサービスが始まって、今年で20年になる。地図をめぐる人類の意識や感覚はどう変わってきたのか。小説家の小川哲さんに寄稿してもらった。
おがわ・さとし 1986年生まれ。2015年にデビュー。「ゲームの王国」で日本SF大賞と山本周五郎賞、「地図と拳」で山田風太郎賞と直木賞を受賞。近作に「スメラミシング」。
ある狩人が、いつも同じ場所で動物を仕留められることに気づいた。その狩人は集落の仲間の前に座り、地面に向かって川や木の絵を描き、狩場(かりば)を共有するために動物がいる場所に印をつけた。雨が降ると地面に記した狩場が消えてしまうことに気づいた他の狩人は、石を彫ることにした。やがて、その石に他の狩人が別の狩場を付け加えていくようになった。
今から何千年、何万年も昔、そのようにして「地図」は誕生した。かつて地面に描かれていた地図は、いつからか紙に記されるようになり、今ではインターネットを通じてスマートフォンの画面に表示されている。
地図とは何か――僕はその問いについて考えてみようと試みて、『地図と拳』という小説を書いた。三十代前半の僕は、この小説に自分の持っているものをすべてぶつけようとした。以前の僕がこの問いにどう立ち向かったのかを端的に語るのは難しく、拙作を読んでいただくほかないのだが、今改めてもう一度考えてみようと思う。
僕は今、喫茶店でこの原稿を…