中島京子 お茶うけに

 「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。

 庭のトマトは順調に育っています。

 くだんの植木屋さんは庭の松の手入れにやってきて、

「若(わけ)ぇもんがスマホを見てよくやっている」

 と、わたしのトマト栽培を評価してくださったらしい(母より伝聞)。

 わたしのことをどれだけ「若ぇ」と思っているのだろうか。検索にパソコンは駆使しているがスマホは出先で少し使う程度だ。いまどきの若者のようにすべてをスマホに頼っているわけではない。と、ここまで書いてきて、おそらく植木屋さんにとって馴染(なじ)みがあるのがパソコンではなくスマホなのだと気づいた。「若ぇ」のは彼のほうではないか!

 iPhoneがアメリカで発売されたのが2007年、日本での最初の販売は08年、Androidスマホの登場が09年ということだが、2010年代に爆発的普及を遂げたらしい。それでも16年の総務省のデータでは80歳以上への普及率は3・3%だけれども、NTTドコモ系列のモバイル社会研究所の24年の調査によれば、80代前半なら6割以上がスマホを所有、2割がガラケー所有、2割弱が未所有という結果になっていた。6割!

 91歳の母も97歳の義母もスマホ所有の時代(使用頻度などは別の話だが)、固定電話は今年、廃止されるという噂(うわさ)すら飛び交った(真相は、アナログ回線からIP網に替わるという専門的な話らしい)。いろんなものが変わっていく。子どものころ、明治生まれの伯父が「わしの生まれたころは、電気がなかった」と繰り返すのを聞いたものだったが、なんとなく、自分自身があの伯父的な存在になりつつある。

画・谷山彩子

 わたしがこのごろとても気に入っていて、なくなってほしくないものの一つに瓶入り飲料というものがある。

 母が長く乳業メーカーから牛…

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