対向車線を走る大学生風の女。パトカーの窓ガラス越しに何げなく見ると、一瞬合った目をそらされた気がした。
「気のせいかな」。それでも、山谷佑一警部(45)は何かがひっかかった。まだ駆け出しの北海道警のとある警察署時代。夕方6時ごろだった。サイドミラーに映る去りゆく車を見ると、ほんの一瞬だけ蛇行して見えた。
急いでUターンし、呼び止める。車外に出てきた女は酒の臭いもしなければ、薬物常習者にあるげっそり感もなかった。怪しい点は見つからない。
女は手元の携帯電話をいじりながらも、質問に答え、所持品検査も協力的に応じた。
蛇行は、ただの運転ミスだったのか。念のため腕をまくってもらう。左ひじの裏側あたりに小さな赤黒い点があった。
「さっき献血してきたんです」
女は注射痕を見せながら、悪…