写真・図版
駄菓子屋「風和里」の店頭に腰掛けて話す松本明美さん(左)と田中健太さん=大阪府富田林市、中野晃撮影

 中学の時に不登校で3年間ひきこもっていた映像作家の田中健太さん(31)=東京都大田区=は、親元を離れて学んだ高校で自信を取り戻した。居場所を求める生徒が集う母校を追った新作のドキュメンタリー映画が、子どもたちの居場所の駄菓子屋を記録したデビュー作とともに東京、大阪で上映される。

 2月半ば、田中さんは近鉄喜志駅(大阪府富田林市)近くの駄菓子屋「風和里(ふわり)」を訪ね、店に立つ松本明美(あけみ)さん(87)に新しい作品のことを報告した。子どもたちから「明美ちゃん」と慕われる松本さん。田中さんにとっては映画監督になるきっかけとなった恩人だ。「お店に帰って来ると、ほっとします」という田中さんに、松本さんは「ほんま成長したなあ」とほほえんだ。

 田中さんは中学校になじめず、自宅の自室にひきこもった。世間で常識とされることができない自分に劣等感を感じ、ものにあたった。

 「このままじゃやばい」と思い悩んでいた中3の冬、不登校生徒の支援機関で全寮制の黄柳野(つげの)高校(愛知県)を紹介され、見学に訪れた。奥三河の緑に囲まれた丘に立つ木造校舎。見晴らしがよく、心地よい風を浴びた。「いい学校だなあ」。一目ぼれをして入学を決めた。

 様々な事情を抱えた生徒が集まり、寮生活をしながら学んだ。田中さんは緊張から最初は身を固くしていたが、同じような境遇の仲間とゲームをしたり、一緒に風呂に入ったりするうちに打ち解けた。「自分のような者でも認められる。生きられる」と自信を持てた。

 部活動では映画研究部に所属…

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