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報道陣の取材に応じる兵庫県の斎藤元彦知事=2025年2月7日午後、神戸市中央区、原晟也撮影

 昨年11月の兵庫県知事選をめぐる疑惑が大きな局面を迎えた。神戸地検と県警は7日、斎藤元彦知事側から報酬を得て選挙運動をしていた疑いで刑事告発されているPR会社「メルチュ」(兵庫県西宮市)の社長の関係先を捜索。資料を押収し、違法性の有無について詳しく調べる方針だ。疑惑の舞台となった知事選に至る経緯と疑惑の内容、それに対する斎藤知事側の主張を整理した。

 昨秋の知事選は、昨春の内部告発文書をめぐる斎藤知事の対応に対する県議会の不信感に端を発する。

  • 兵庫知事選SNS運用問題、公選法違反容疑でPR会社関係先など捜索

 内部告発は昨年3月、兵庫県の元西播磨県民局長(当時60)によってなされた。匿名で、報道機関や一部の県議に文書を配り、斎藤知事の県職員へのパワハラや物品の受け取りなど「七つの疑惑」を挙げた。

 斎藤知事は直後、告発者が誰なのかを特定し、調査するよう部下に指示。3月下旬の記者会見では、文書の内容を「うそ八百」と表現し、月末で退職予定だった元県民局長の人事を取り消したと発表。「公務員失格」などと強い言葉で非難した。

 元県民局長は4月、県の公益通報窓口にも同様の申告をしたが、斎藤知事は自身や県幹部に向けられた疑惑の調査を、第三者に委ねず、県の内部で処理。県は、内部調査によって告発内容の「核心部分が事実ではない」と結論付け、5月、元県民局長に停職3カ月の懲戒処分を下した。

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斎藤元彦知事らの内部告発問題を調べる兵庫県議会調査特別委員会=2025年1月27日午前10時41分、神戸市中央区、添田樹紀撮影

 元県民局長は7月に死亡。自殺とみられているが、原因はわかっていない。

 一連の対応は、内部告発者の保護について定めた公益通報者保護法に違反する、と指摘された。

 告発内容の真偽を調べる調査特別委員会(百条委員会)を立ち上げた県議会は9月、斎藤知事に対して、元県民局長が死亡したことなどに対する道義的責任を問うたが、斎藤知事は「道義的責任が何か分からない」と発言。「知事の資質がない」との批判が強まった。県議会は同じ月、全会一致で不信任決議案を可決した。斎藤知事は自動失職して知事選に立候補することを選択した。

     ◇

 斎藤知事側によると、失職する前日の9月29日夕、メルチュ本社を訪問して社長と協議。10月3~9日ごろには、公約スライドの制作や選挙ポスターのデザインなど5項目を口頭で依頼したとしている。

 知事選は同月31日に告示され、序盤こそ劣勢とみられていた斎藤知事(当時は候補)だが、勢いは日を追うごとに拡大。11月17日、111万票あまりを獲得して再選を決めた。

 しかし投開票日の3日後の11月20日、事態は急変した。メルチュの社長が投稿サイトに「斎藤陣営の広報全般を担っていた」などと書き込んだからだ。

 公職選挙法は、候補者が当選を得るなどの目的で選挙運動員に金銭を渡すなどの行為を禁止している。運動員が金銭の提供を受け入れることも禁じており、社長の書き込みが事実であれば、違法行為に当たるとの指摘が相次いだ。

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多くの聴衆が見つめる中、演説する斎藤元彦氏(左上)=2024年11月16日、神戸市中央区

 こうした疑惑について、斎藤知事や代理人弁護士は、①メルチュに支払った71万5千円は「(公選法で認められている)ポスター制作といった成果物の対価」で買収には当たらない②社長はSNSのアカウント作成や選挙演説の撮影などにも携わったが、個人のボランティアとして関わった③選挙運動に該当するような契約や報酬の支払い、その約束はなかった――などとする説明を繰り返した。

 一方、12月1日には、元東京地検検事の郷原信郎弁護士と神戸学院大の上脇博之教授が、公選法違反(買収、被買収)の疑いで斎藤知事と社長に対する告発状を神戸地検と県警に送付した。

 郷原氏らは、①社長はSNSによる広報全般を企画・立案しており、選挙運動者にあたる②斎藤氏側が11月に支払った71万5千円は、知事選で社長に委託した「戦略的広報業務」の報酬だった疑いがある③社長側も選挙運動の報酬として金銭を受け取った疑いがある――などと主張。「有償のSNS選挙戦略を放置すれば、ネット金権選挙による腐敗が今後の選挙を席巻することになりかねない」などとした。

 ほどなく、地検と県警は告発状を受理。捜査方針を協議していたが、今回のタイミングで関係先の捜索に乗り出すことになった。

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