地震の規模は大きくないものの、東京・伊豆諸島で10年おきに発生する「謎の津波」と呼ばれる現象がある。詳しいメカニズムが分からず、気象庁による注意報は「後出し」が続いてきたが、9月の地震では初めて事前に発表することができた。背景には、技術的な進歩に加え、「AI(人工知能)にはできない」という職員の機転があった。
9月24日午前8時14分、東京・伊豆諸島の鳥島近海で地震が発生。地震の規模を表すマグニチュード(M)は5・8と推定され、震度1以上を観測した地点はなかった。
しかし、北に600キロ近く離れた東京都港区にある気象庁5階の地震火山オペレーションルームは一瞬で緊張感に包まれた。職員たちの脳裏に「謎の津波」がよぎったからだ。
メカニズム分からず、続く「後出し」注意報
鳥島近海で発生した同規模の地震では、1984、96、2006、15、18年にも津波が観測された。近くの海底火山との関係を指摘する研究もあるが、気象庁は明確に関連づけができず、発表基準である20センチを超える津波が実際に起きても、観測後に注意報を出す、「後出し」が続いてきた。
津波の発生は、震源の深さなど考慮すべき要素は多いが、「謎の津波」を除いて、M6・5前後よりも小さい規模の地震で津波を観測した例はほとんどない。Mは1増えると、エネルギーは30倍となる。「大地震」と呼ばれるM7以上の地震より規模が小さく、「中地震」に相当するM6程度の地震では通常、津波が生じる例は少ない。
ただ、地震津波監視課の桑山辰夫調査官は「『特異な事例』と捉え、庁内で検討を重ねていた」と明かす。「謎の津波」も含め、年に数回程度しかない津波の注意報や警報発表の判断について、職員で共有し、似たようなシナリオを想定した訓練を日々行ってきたという。
さらに今回の地震の5日前に、同庁は鳥島から北に100キロ余り離れた須美寿島で海底噴火のおそれがあるとして、噴火警報(周辺海域)を発表していた。予兆もあり、津波の発生について、「心構えはできていた」(桑山調査官)という。
注意報の発表、10万通りのデータベース活用
実際に地震発生から6分後の…