これまでのように料理や食を楽しみたい。そんな声や思いに応える器具や工夫があります。何より大切にしたいのは、使ってみたいと思う、本人自身の気持ちです。
認知症の人らが日中を過ごす福岡市の「デイサービス桜」。ガスコンロでピーマンを炒めて昼食を準備していた女性利用者(79)が火を消すと「左コンロ 火を 消しました」という音声が流れた。「声で知らせてくれるのは便利。調理が楽しい」
このガスコンロは、「SAFULL+(セイフルプラス)」(税込み23万1千円、ビルトイン式)。ガス機器メーカー「リンナイ」(名古屋市)が認知症の人約40人や介護者らの声を採り入れて約2年かけて開発し、今年2月に発売した。認知症予備軍も含めた高齢者や比較的軽い認知症の人の利用を想定している。
「デイサービス桜」の管理者の本野光代さん(49)は「利用者は、ガスコンロの火の調理になじんだ世代。調理は複数の工程を同時に進める力を維持し、おいしいと言われるなど自己肯定感を高めることも期待できます。周りから危ないと言われ調理しなくなる人もいますが、このコンロは安全面に配慮され使いやすいです」と話す。
「炎見えにくい」認知症の人の声に衝撃
開発のきっかけは2021年秋。認知症の人が安心して暮らせる製品などを考える福岡市主催の勉強会にリンナイ九州支社の社員が参加した。
認知症の人の調理の動作を学ぶため、同社の最新型ガスコンロを使ってもらうと、「操作が難しい」「炎が見えにくい」との声が上がった。その報告を聞いた同支社リビング営業室参事の伊集院章さん(60)は衝撃を受けた。良い製品を作ってきたつもりだったが、コンロが使いにくくて、多くの人が好きな調理をあきらめているのでは――。認知症の母(85)の姿が重なった。
鶏ガラスープから作るラーメン、味がしみた筑前煮。料理好きの母は、ガスコンロで何でも作ってくれた。20年ほど前に認知機能が衰え始めてからも調理していたが、火を消し忘れるように。その後寝たきりになったという。
「母のような人たちのために何かしたい」。そんな思いが開発への原動力になった。「高齢や認知症になっても、調理する喜びを味わい続けてほしい」と伊集院さん。
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