「日本では依存症への正しい理解が進んでいない」と話す田中紀子さん
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 米大リーグの大谷翔平選手の銀行口座から約24億円をだまし取ったとして元通訳の男性が訴追され、ギャンブル依存症の治療プログラムを受けることを条件に保釈されました。自身もギャンブル依存症からの回復者で、当事者や家族を支援する「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんは、「信頼を裏切るような行為に至ったのは、ギャンブル依存症という病気の症状」と言います。「必要なのはバッシングではなく、社会の理解と適切な規制だ」と訴えます。

 ――報道をどう見ていますか。

 テレビの報道番組でコメンテーターが容疑者について、「利己的だ」「罪深いことをした」など人格を攻撃するような発言を聞くと、あまりの無知ぶりに憤りを感じます。

 良い夫であり、優しい父でもあった依存症者がウソをつき家族を裏切ったという話は依存症者にはよくあることだからです。世界保健機関(WHO)は「ギャンブル依存症(病的賭博)」を、治療を必要とする病気と位置づけ、診断ガイドラインで「貧困や家族関係、個人生活が崩壊するなどの結果を招くにもかかわらず(賭博を)持続、しばしば増強する」のが症状だと明記しています。

 もちろん周囲は深く傷つきますが、本人の意志ではどうにもならない。まずは個人の人格や性格の問題ではなく病気なのだということを知ってほしい。

 ――ギャンブル依存症とはどのような病気なのでしょうか。2021年に厚生労働省が発表したギャンブル依存症に関する実態調査で依存が疑われる人は2・2%程度であると言われています。

 最初は趣味だったギャンブルが、人生のピンチや強いストレスなどを抱えている時にガツーンとはまる。私もそうでした。離婚の直後で「親みたいになりたくなかったのに親子2代で離婚か」「この先の人生はどうなるんだろう」。不安やみじめな思いを感じていた人生の「谷」で、ギャンブルが薬のように苦痛を和らげてくれた。

 多くの人が快楽を求めてギャ…

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