TSMCとは何者か
半導体の受託生産で世界シェアの過半を握り、最先端の半導体をつくる「TSMC」。その影響力の大きさに比べて、実像はあまり知られていない。台湾の関係者の証言をたどり、「世界一」と称される理由を5回連載で探る。
316万元。日本円に換算すると、約1500万円になる。
TSMCが公開している、2022年の全従業員の平均年収だ。
台湾の平均年収が約330万円(台湾の人材会社「104人力銀行」調べ)なので、驚くほどの高給だ。修士課程修了の新卒入社の技術者は、1年目から200万元(約1千万円)以上を受け取るという。
「他の産業では20年かかる給料に、TSMCなら3年でたどり着く」。台湾ではそう言われている。
TSMCで働く多くの技術者が、高級マンションで暮らしているという。どんな物件か。内見させてもらった。
ホテルのような豪華な内装が広がる。専用のプールやジム。屋内に陸上競技用のトラックがある物件もあった。
台湾では半導体企業は法人税の優遇措置を受けるなど、当局からの支援も手厚い。格差を訴える声はないのか、と現地の記者に尋ねると、驚いた顔で「なぜ嫉妬するの? それだけ厳しい仕事をしているということ」と返された。
「新竹のエンジニアはみんな、40代で辞める」
経済格差はあるものの、尊敬のような思いに加えて、TSMCの仕事の過酷さも広く知られているようだ。
TSMCの子会社で20年働いた元技術者の黄淑君さんは「家に帰っても、常にスタンバイ状態だった」と語る。問題が発生して時間を問わず電話がかかってくるのは「日常茶飯事だった」。
家と会社を往復する日々で…