男性がジュエリーを身につける動きが広がっている。なかでも、これまで女性の装飾品として認識されてきた真珠のネックレスは2019年、コムデギャルソンがメンズコレクションで発表したショーの全モデルが着用して以降、多くのブランドが男性向けの商品を発売。性差の壁がなくなってきた。日本文学研究者のロバート キャンベルさんも数年前からのパールネックレス愛用者だ。どのような思いで身につけているのかを聞いた。
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パールのネックレスは19世紀中ごろ以降に女性向けの装飾だと解釈されるようになりましたが、それ以前は男性の装身具だと認識されていました。つい最近訪れたパリで美術館巡りをした時も、中世からルネサンス期に、ヘンリー8世やインドのマハラジャといった男性たちが身につけていたことが分かる肖像画を何枚も目にしました。
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かつて男性が着用していたパールが、やがて女性の代表的な装飾になり、いま再び男性も身につけることが不自然ではないと受け止められつつあります。現代を生きる人々のジェンダー意識が変化してきた今、パールは様々なジェンダーが交わる流域に存在し、性や年齢をつなぐものであるように私は感じています。
中世の頃の真珠は本当に限られた人だけが身につけられるもので、貴賤(きせん)の分け目やお金、権力の象徴でした。しかし、20世紀初頭にミキモトが真珠の養殖に成功すると、世界各国で評価を受けて広まりました。19世紀に英国のヴィクトリア女王が夫のアルバート公を亡くして長年喪に服した際に、黒い衣服と合わせたことで女性が大切な人を追悼する際の装飾と認識されるようになりました。一方で、ジャクリーン・ケネディやオードリー・ヘプバーン、マリリン・モンローらが20世紀半ばから後半にかけてハイファッションと掛け合わせて使うようにもなりました。
そして現在、男性がパールをはじめとしたジュエリーを身につけるようになったのは、コロナ禍の影響もあると思います。あの時期、人と会えないことで「自分にとって価値のあるもの」「本当に好きなもの」を買うという行動が盛んになりました。宝飾ブランドはかなり潤ったはずです。もちろん消費者心理としては「資産価値が目減りしにくい」という投機的な心理作用もあったはずですが。
また、オンライン会議などによって端末を通しての会議や会合が当たり前になったことも、一つの要因ではないでしょうか。見た目としてバストアップが非常に重要で、ネックレスや耳まわりの装飾は男女問わず注目されました。今ではピアスまではいかなくても、イヤーカフをつけている男性も増えましたよね。
大リーガー、男性ラッパーらも続々と
そうした装飾品を著名人がつ…