鮮魚店の関係者は、スマホのライブ機能を活用して商品を売り込んでいた=2024年6月13日、北京の京深海鮮市場、畑宗太郎撮影

 あれから1年がたった。東京電力福島第一原発事故で溶け落ちた核燃料を冷やすために増え続けてきた汚染水が、放射性物質を取り除く施設を通した処理水として海洋放出され始めたのは、昨年の8月24日だった。

 当時、放出に反対する中国政府は処理水を「核汚染水」と呼んでリスクを強調した。だが、それがやがて自分たちに跳ね返ってくることは予想できなかったのだろうか。

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 放出1年が近づいた8月の週末、私は日本から来た知人を北京中心部の市場に案内していた。エビやヒラメなどの水槽が並ぶ鮮魚店で店主の男性(54)に話しかけると、男性は「汚染水の影響はとても大きい」と訴えた。

 聞けば、店の売り上げに影響が出始めたのは今春以降。「昨夏はまだよかったのに、春ごろから、特に子どもや妊娠中の人が家族にいる客が買ってくれなくなった。売り上げは昨年の7割ほどだ」と語る。「政府は中国沿海の魚が危ないとは言っていない。しかし、一度不安を抱かれたら、払拭(ふっしょく)は難しい」と半ば諦めの言葉も口にした。

 放出の影響が今春になって顕在化したという説明の背景には、あるシミュレーションがある。

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