
アジア・太平洋戦争で旧日本軍兵士が負った「心の傷」の実態について、国による初の調査の結果が来年度、一般向けに公開されることが決まった。厚生労働省が所管する戦傷病者史料館「しょうけい館」(東京)の運営有識者会議が12日に開かれ、方針が了承された。
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戦場体験によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)といった兵士らの心の傷は、軍や国が存在を公にせず戦後埋もれてきた。近年、その家族らが「戦争トラウマ」として証言活動を広げ、注目されてきた。一昨年3月には、加藤勝信厚生労働相(当時)が国会で「心に傷を負われた元兵士や家族の実態を語り継ぐということは大事なことだ」などと答弁し、しょうけい館で調査する方針を示していた。
国は今年度、旧陸海軍の病院や傷病軍人療養所、日本傷痍(しょうい)軍人会などに残されたカルテや関連文書、体験記を収集してきた。集まった資料を整理分析し、戦後80年となる今年7~10月に企画展を開く。また、来年2月には常設展を始めるという。
有識者会議の福田孝雄座長は「資料収集が難しいなど苦労はあったと思うが、幅広く集めた。従来あまり取り上げられてこなかった心の傷について戦後80年で展示するのは、意義がある」と述べた。
家族からは「より広範な実態調査」求める声も
ただ、しょうけい館は国が戦傷病者と認めた人たちの労苦を伝える施設のため、認定から漏れた元兵士らは調査研究の対象外だ。元兵士の家族らからは、当時「戦傷病者」と診断されなかった人の中にもトラウマに苦しんだ人が少なくないとの声が上がっている。
戦争トラウマの問題について証言活動を続けてきた「PTSDの日本兵家族会」の黒井秋夫代表は、国に対して兵士の家族から幅広く証言を集めるよう求めてきた。会議を受けて「一歩前進」と評価しつつ、「元兵士や家族の苦しみの実態を伝えるため、より広範な実態調査を国主導で行うべきだ」と話した。
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有識者会議の構成員の鈴木淳東大院教授は「ウクライナやガザなどで戦火が続くなか、戦争による『心の傷』は人ごとではない。日本の過去の事例を調査することは重要だ」と話した。一方、国による実態調査については「しょうけい館の役割や予算などでは、幅広い調査をやるには限界がある」と指摘した。
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