更年期障害や不妊などの女性特有の健康課題や病気の研究拠点として、政府は10月1日、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)に「女性の健康総合センター」を開設する。女性のライフステージにあった医療を適切に提供することで、大きな課題となっている、健康問題による女性の労働損失を防ぎたい狙いもある。
女性はホルモンのバランスが年齢ごとに大きく変化する。生殖器にまつわる女性特有の疾患があるだけでなく、同じ疾患でも男女で症状や発症の特徴が異なることがあることも分かっている。
例として、心臓の筋肉に血液を送る血が細くなったり詰まったりして起きる虚血性心不全は、男性は年齢が上がるにつれて徐々に患者が増えるのに対し、女性は閉経後、患者が急増する。男性と比べ、検査では分かりにくい微細な血管の障害が多く、痛みを感じる場所が異なる症例も報告されている。
また、薬や治療の効果を調べると、一部のタイプの抗うつ薬で女性は効果が強く出やすいなど、男女で効き方や副作用に差があることも分かっている。薬には、ホルモンの変動によるデータへの影響を避けるため、女性を治験の対象から外して開発されたものが多いと指摘される。
こうした性差の影響に注目する必要性が訴えられ、米国では1990年から「性差医療」が提唱された。日本でも2000年代以降、各地に性差医療センターや女性外来が開設された。ただ、研究や臨床のデータが分散しており、包括的な分析が不足しているのが現状だ。
「女性の健康総合センター」では、データ収集を通じて、性差医療を確立することを目的の一つとしている。
他の研究機関などと協力したデータセンターの構築▽社会学的な視点も含めた調査・研究の推進▽情報収集と発信▽産前産後期などの女性の体とこころのケアの支援――の四つの事業を柱に、女性の健康を総合的に研究する。診療も担う。
更年期障害による欠勤など、深刻な経済損失
国が女性の健康に特化した研究を本格化させるのには、女性の就業率が上がる中、健康課題が大きな労働損失につながっている背景がある。
経済産業省は今年2月、月経困難症などの月経に伴う症状や更年期症状、不妊治療などによる欠勤やパフォーマンス低下で、年間約3・4兆円の経済的損失が生じているとの試算を公表した。中でも、更年期症状は、離職とパフォーマンス低下だけで約1・5兆円に上り、最も影響が大きい。
厚生労働省の検討会では、企業が公表することになっている行動計画の中に、月経や更年期などの健康課題への取り組みを盛り込む方向を示すなど、対策を模索している。
女性の健康総合センターのセ…