男性から向井さんに届いた手紙=2024年6月19日午後5時6分、東京都内、黒田早織撮影

 翻訳家の向井和美さんのもとに、出版社を通じて白い封筒が届いたのは昨春のことだ。差出人には、知らない男性の名前があった。

 読者からの感想だろうか。開くと、予想もしない一文があった。

 「突然申し訳ありません。私は刑務所で服役している者です」

 整った細かい字に、丁寧な文章。強盗殺人罪で20年以上服役している無期懲役囚からだった。向井さんのエッセー「読書会という幸福」(岩波新書)を読んだ感想と共に、自らの生い立ちや贖罪(しょくざい)の意識が、7枚の便箋(びんせん)にびっしりつづられていた。

 刑務所では厳格な規律を守る…

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