Still Sounding Young at 85, She Is the Voice of Old Japan
世界一の長寿アニメ番組、開始から唯一残る声優
出演者たちがレコーディングスタジオに集まり、目の前のスクリーンに日本でもっとも愛されているテレビアニメの場面が映し出される中、交代でマイクに向かった。加藤みどりさん(85)は、その中で唯一の白髪交じりの人物だ。彼女は目を閉じ、自分の役の番がくるまで少しの間、まどろんでいるように見えた。マイクの前に進み出て、肩を少し下げ、節くれだった手には台本が握られている。
だが彼女が口を開くと、陽気で少し鼻にかかったような、24歳の専業主婦の声がした。何世代もの日本人にとって、彼女はサザエさん、つまり世界で最も長く続くテレビアニメシリーズの番組のタイトルにもなっている主人公だ。
1969年の日曜午後6時半に「サザエさん」の放送が始まって以来、加藤さんは、姉御肌で優しいけれど、おっちょこちょいで、しょっちゅう起こる災難にばつが悪そうにしているこの女性を演じてきた。加藤さんは最近、テレビアニメシリーズで同じキャラクターを最も長く務めてきた声優としてギネス世界記録に認定された。サザエさんで唯一残るオリジナルキャストで、最年長でもある。
「サザエさん」はいまもフジテレビで放映開始当初と同じ時間帯で毎週放映されている。サザエさんとその夫、3歳の息子と、サザエさんの両親(声は加藤さんよりずっと若い声優が担当している)、やんちゃな小学生の弟と可愛い妹の日常を描く。この3世代は東京の郊外の一軒家に住んでおり、初期のエピソードで描かれた伝統的な時代設定がほとんどそのまま残っている。仕事が始まる前の日曜の夜の憂鬱(ゆううつ)さを指す「サザエさん症候群」という言葉さえあるほどだ。
年をとることがない登場人物たちは、魚介類にちなんだ名前が付けられている。サザエ(日本では珍味として知られる巻き貝)さんは55年間、変わらぬ特徴的な三つに分かれた髪形を維持してきた。登場人物たちは、ダイヤル式電話や公衆電話ボックスから電話をかけ、物語の展開は、テキストメッセージの時代には起きえないコミュニケーション上の行き違いから生じることが多い。
- 【注目記事を翻訳】連載「NYTから読み解く世界」
「サザエでございま~す」の声でおなじみの加藤みどりさん。彼女が半世紀以上演じてきたサザエさんを通して、日本社会の変化、そして変わらないものを読み解きます。
■あえて変えない時代設定…