非常勤の事務職員として10年以上勤めた京都大学を追われた元職員。身に覚えのない処分に対して地裁に起こした訴訟が5月に判決を迎える。孤独や中傷との闘いや、4年近く続いた裁判への思い、同じような弱い立場に置かれた人へ伝えたいことを朝日新聞の取材に語った。

元職員が受け取った京都大の懲戒処分書

 50代の元職員が京大を追われた理由は「懲戒解雇」だった。2020年3月31日に処分を伝えられ、その日のうちに勤務するiPS細胞研究所から退出を命じられた。理由に納得できるところはない。

 京大は同日、元職員を同日付で懲戒解雇にしたと発表した。大学の秩序・風紀を乱す行為などを禁じた規則に違反したのが理由だとしている。

覚えのない処分理由 だが、闘えるのか

 具体的な行為として、勤務する研究室の教授のパソコンを無断で操作してメールを見たことや、機密書類を持ち出してスキャンしたことを挙げた。外部への流出はなかった。ほかに、備品を勝手に処分したことや、休日に子どもを立ち入り制限エリアに入れたことなども違反だとしている。

 元職員によると、事務に関連して該当する行為は思い当たらず、そもそも備品の管理は自分の担当ではなかった。研究者が家族を連れてiPS研に来ることもある。京大側に、どのメールや書類を指して、処分の理由としたのかを尋ねたが、答えはなかった。

 京大の別の研究所を経て、13年からiPS研で勤務していた元職員は1年間の雇用契約を更新し続け、19年から期間の定めのない雇用契約となっていた。研究には関わらず、所属する研究室の経理や教授(現在は別大学に所属)の秘書のような役割を担っていた。

研究不正で劇的に変化した研究室の体制

 一方、その数年前に研究室では研究不正が発覚し、論文の撤回や受賞歴もあった研究者の懲戒解雇など、体制に劇的な変化があった。

 17年以降、教授からは「なんで辞めへんの」「仕事ないねんで」などと言われていたという。応じてこなかった元職員は「雇用契約を切ることができないから、解雇という手段に出たのではないか」と感じた。

 処分から約3カ月後の20年7月、元職員は京大を相手取り、地位の確認と、退職勧奨時に腕をつかまれるパワハラがあったなどとして慰謝料を求める訴訟を京都地裁に起こした。

 シングルマザーで生活の糧も失った状態。それで京大を訴えるのか――。「個人からしたら、裁判をしない方がコスパがいい」と悩んだ。それでも、「同じように泣き寝入りしている、立場の弱い人は多いと思う。おかしいことはおかしいと言いたい」と、法廷で闘う道を選んだ。

 裁判では、懲戒解雇に該当する行為はなかったなどと主張。自身の当事者尋問や、教授の証人尋問などを経て今年3月に結審、5月に判決が出る予定だ。

元職員の代理人弁護士によると、労働者の権利を守る活動をしている団体として、日本労働弁護団(https://roudou-bengodan.org/別ウインドウで開きます)があり、相談料無料のホットラインなどを設けている。

 元職員によると、提訴に至る…

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